大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和59年(ラ)113号 決定 1985年1月31日

控告人 山田加代子

主文

原審判を取り消す。

本件を熊本家庭裁判所水俣出張所に差し戻す。

理由

本件抗告申立の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

そこで検討するに、本件記録によれば、抗告人は昭和三八年一二月二六日坂上静男と婚姻し、夫の氏を称する婚姻届をし、昭和五七年七月二四日協議離婚したが、婚姻中の氏を称する届出をしたこと、その後昭和五八年一一月一日山田強と婚姻し、夫の氏を称する婚姻届をしたが、昭和五九年九月一一日夫が死亡したこと、夫死亡後抗告人としては婚姻前の氏である坂上に復することを希望せず、家族ともども坂上静男との婚姻前の抗告人の生来の氏である松本姓で事実上生活し、二女も学校内で松本姓を名乗つていることから、松本に氏を変更することを希望しているものであることが認められる。

右の事実に、婚姻によつて氏を変えた者は離婚により原則として婚姻前の氏に復し、婚姻中の氏の継続使用は例外的なものであること、配偶者の死亡に伴い婚姻前の氏に復する場合において、その婚姻前の氏が前婚の氏の継続使用であつた場合に、その氏に復することなく、前婚の前の生来の氏に復帰することは、なんら氏に関する社会秩序を混乱させるものではないことを併せて考えてみると、本件にあつては、氏の変更について戸籍法一〇七条一項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当である。

よつて、右と異なる原審判を取り消し、抗告人と同一戸籍内の二名の満一五歳以上の者の陳述を聴いたうえ、さらに審判をするのが相当であるから、家事審判規則一九条一項により本件を熊本家庭裁判所水俣出張所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 齋藤次郎 裁判官 石井義明 江口寛志)

抗告申立書<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例